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ルビンの壺が割れたへの思い 

企画 脚本 黒木瞳

 
宿野かほる著『ルビンの壺が割れた』を教えてくれたのは、5年ほど前、私の姪だった。
面白いから読んで、と言われて読んだら、物語終盤のどんでん返しの衝撃に、私の心はどっか遠くへ連れ去られた。
自分の主観が粉々に砕かれた瞬間だった。主観ってなんだろう。思い込みってなんだろ
う、と考えた。そして、自分の主観なんて、たいしたことないんだなとさえ思った。
この小説を読み始めると、水谷一馬に同情するだろう。圧倒的なマジョリティは一馬に傾く。そして、マイノリティだった者たちは、次第に勢力を強め、ラストには、、、。
マジョリティもマイノリティもなにも存在しなくなり、壺は割れるのだ!
デンマークの心理学者、エドガー・ルビンが考案した多義図形、ルビンの壺。
見方によって、壺にも見えるし、人の顔にも見える。人の知覚は意思の方向性や知覚が集中する部分において見方が変わってくる。それが、さまざまな人間の持つ個々の性質だという。
日常生活においても、第三者の勝手な見方によって、その理不尽さに悩まされることだってある。しかし、それが人間なのだから受け入れなければならないときだってある。
でも作家は、“壺を割っちゃった”のだから、読後感の衝撃は半端じゃなかった。
始めは、映画にしたらどうなるだろうと考えた。
なかなか考えがまとまらなかった。では舞台ならどうだろう。例えば、タップを踏みながら、一馬と未帆子の気持ちを表現できないだろうかと考え、タップの師匠に相談してみた。
でも、私たちふたりに答えは見つからなかった。
ふと、ずいぶん前に朗読をした『ラブ・レターズ』を思い出したのが、一昨年の暮れ。そっか、メールのやりとりなのだから、朗読劇にしちゃえばこの物語がストレートにお客様に伝わるのではないかと考えた。それからは、はやかった。朗読劇の著作権をいただくには企画書だけでは伝わりにくい。それなら、書いちゃえ!と思い、本を書き始めた。(この段階では、あくまでも、叩き台のつもりだったのだが)、そのまま、採用された。
二人の朗読だけではオモロないかなとも思い、案内役を立てて物語をスムーズに進ませみた。これも採用され、安堵。
そんな頃に、ゆるかわふうさんというアーティストに出会った。
彼は、世界で初めて考案した“光彫り“というアートを作成されていた。断熱材を様々な形に堀り、後ろから光を当てることによって作品が鮮やかに浮かびあがる。その芸術作品の数々を拝見した私は、あまりの素晴らしさに心を奪われた。
ゆるかわさんに壺を製作していただき、その壺が舞台を彩ったらどんなに素敵だろうと。
ゆるかわさんが舞台にご興味を持たれたことは大きかった。私の頭の中のイメージは、形へと変化し、朗読劇としての輪郭が少しずつ出来上がっていった。
ゆるかわさんが製作される壺によって舞台のクオリティは増すと確信。
そして、ラッキー池田さんの振り付けも欠かせないと思った。
案内役・アキレウスのステージングをラッキーさんにお願いするため本をお送りすると笑っちゃうくらいオモロかった、とおっしゃっていただいた。
メールで送られたラフの振り付けは的を得ていて申し分なかった。「やっぱ、天才だわ!」と、ラッキーさんに返事した。私がなにを求めているのかキャッチされる能力は、単にセンスの良さだけでなく、ラッキーさんの持つ懐の深さなのかもしれない。
最後に、案内役の名前がなぜアキレウスかと申しますと、これは、ゆるかわさんからのご提案で閃いた。
舞台を彩る壺の模様、そう、これは、ギリシャ神話の女性ペンテシレイアとアキレウスの、一騎打ちの殺害風景を暗示する絵だ。紀元前6世紀末の黒絵式壺に描かれている。
アキレウスが剣をかざしてペンテシレイアは敗れた。
一方、戯曲では、二人は恋に落ち、ペンテシレイアがアキレウスを殺している。
戯曲の話とルビンの壺が割れたの物語、そのふたつがリンクしたゆるかわさんからのご提案に、「絵柄はこれにしましょう」と即決した。
アキレウスは、水谷一馬の化身だ。
素晴らしいこのアートともども朗読劇『ルビンの壺が割れた』をご堪能いただきたい。


 

演出家 挨拶

演出 川名幸宏

 
朗読劇『ルビンの壺が割れた』にご来場いただき誠にありがとうございます。
初めて黒木瞳さんにお会いしたのは、美術、ゆるかわふうさんのアトリエでした。幻想的な作品群の中で、今回の美術であるルビンの壺のイメージについて言葉が交わされていました。そして、この企画に対する思いを聞きました。私が初めて読んだ台本に記された「第6稿」という文字が、その思いの強さを物語っていました。この気持ちを何より大切にしなければならないと、身の引き締まる思いでした。
お稽古をしていて興味深かったのは、同じシーンでも読み方や感情の流れによって、全然違う人に見えるということです。お芝居をつくる上で、そんなこととても当たり前のことのように聞こえるかもしれません。でも改めて、私たちが普段やっている言葉を立体的にする作業って、本当に無限に読み方や感情の流れの作り方があって、一言、一文字、読む音が違うだけで、そのキャラクターが違う人に見えます。さらにお客様側に立てば、全く同じお芝居を見てもそれぞれ違った感じ方があります。本当にお芝居って、見方、感じ方の角度によって全然違う。それはまさしく“ルビンの壺”のよう。
お芝居だけではなく、普段生きていても、そうだな、と思います。
原作を読ませていただいて、“ジェットコースターのような大どんでん返し”がとにかく圧巻だったのですが、読んだ後、不思議と一馬や未帆子のことじゃなくて、自分の知り合いや身内のことが頭に浮かびました。「そういえばあの時あんなこと言ってたけど、本当はどう思ってたんだろう」とか、「僕が言ったあれ、あの人ニコニコ聞いてたけど、本当はどうだったんだろう」とか。
きっと生きていく上で、それが理路整然と解決できるようなら、むしろ面白くないような気がするのも不思議です。だからルビンの壺っていつまででも見ていられちゃうのかな、と思います。
最後になりましたが、この公演をつくりあげてくださった、全てのキャスト、スタッフの皆さまに感謝します。
そしてどうか、この朗読劇『ルビンの壺が割れた』が、お客様の心のどこかに響きますように。
 
1988年生まれ。東京都出身。
劇団扉座にて横内謙介氏に師事し演出助手として活動する中、2017年、第28回下北沢演劇祭の若手支援企画「下北ウェーブ2018」に選出され、それを機に自身の作品をつくる団体「東京夜光」設立。同企画で2018年2月「裸足の思い出」を上演。2020年、(公財)三鷹市スポーツと文化財団による「MITAKA“Next”Selection 21th」に選出され、「BLACK OUT」を上演。ある演劇青年が演出助手としてついた、コロナ禍2020年4月本番予定の舞台の稽古期間1ヶ月の物語を描いた。2022年2月、「悪魔と永遠」で本多劇場進出。東出昌大を主演に迎え、罪と罰とそれからの物語を描いた。
また同年9月には下北沢ザ・スズナリで日本初上演された英国劇作家ヴィッキー・ドノヒュー氏の戯曲「MUDLARKS」演出。2023年は東京グローブ座「アンビリーバボー」(脚本・演出補)、新橋演舞場「俺たちのBANG!!!~大劇場を占拠せよ~」(作・演出)など精力的に活動している。


出演

 
 

結城未帆子 役
黒木 瞳

 
女優。 宝塚歌劇団に入団2年目で、月組娘役トップとなる。 テレビ、映画、舞台で活躍。 これまでの映画作品において、WEIBO ACCOUNT FESTIVAL2022 最優秀主演女優賞受賞。 2023年6月公開映画「魔女の香水」では主演を務める。 近年は映画監督として4作品を手がけたり、 舞台演出などのエンターテイメントの世界で幅広く活躍中。 第四詩集となる「夢の水たまり」を出版したばかり。


 

水谷一馬 役
渡辺いっけい

 
劇団☆新感線に参加後、状況劇場に入団。1988年の退団後は、数々の舞台、映画、TVドラマなどで活躍。近年の主な出演作に【舞台】秋公演『たわごと(仮題)』(23/桑原裕子演出)『ウィングレス』(23/鴻上尚史演出)『住所まちがい』(22/白井晃演出)『てなもんや三文オペラ』(22/鄭義信演出)
【映画】『Winny』(23/松本優作監督)『シャイロックの子供たち』(23/本木克英監督)『マリッジカウンセラー』主演(23/前田直樹監督)『われ弱ければ 矢嶋楫子伝』(22/山田火砂子監督)、『梅切らぬバカ』(22/和島香太郎監督)【ドラマ】『大富豪同心3』(23/NHK)『シッコウ!!~犬と私と執行官~』(23/EX)『婚活食堂』『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(23/TX)『ウツボラ』(23/WOWOW )など。
アニメ『おしりたんてい』では声優、ナレーションも務めている。


 

語り部アキレウス 役
細谷佳正

 
2014年と2016年の2度に渡り声優アワード 助演男優賞受賞。
吹き替えやアニメ、ナレーションや舞台など多岐にわたる分野で活動している。

 【代表作】
「クレヨンしんちゃん」野原せまし役、「進撃の巨人」ライナー・ブラウン役、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」オルガ・イツカ役、「この世界の片隅に」北條周作役、「ザ・フラッシュ」フラッシュ役(エズラ・ミラー)、「シャン・チー/テン・リングスの伝説」シャン・チー役(シム・リウ)、テレビ朝日『ザ・タイムショック』ナレーション、映画『わたしの幸せな結婚』(予告ナレーション)、ビジネスツール『Lark』(CMナレーション)、朗読劇「夜能」など他多数


 

語り部アキレウス 役
陳内 将

 
1988年1月16日生まれ、熊本県出身。2008年デビュー。
主な出演作に、舞台:『東京リベンジャーズ』シリーズ、『紅葉鬼』シリーズ、『文豪とアルケミスト 戯作者ノ奏鳴曲』、『朗読活劇 信長を殺した男 2023』
ドラマ:『あいつが上手で下手が僕で』シリーズ(NTV)、『恋と友情のあいだで』(FOD)
映画:『死神遣いの事件帖 -月花奇譚-』、『ヒットマン・ロイヤー』はじめ、舞台劇「AD-LIVE(アドリブ) 2022」など、幅広く活躍。
8・9月にはMANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SUMMER 2023~への出演が控えている。


スタッフ

 
原作        宿野かほる
          『ルビンの壺が割れた』
          (新潮文庫刊)
企画 脚本     黒木 瞳
演出        川名幸宏
美術        ゆるかわふう
振付        ラッキィ池田/彩木エリ
音楽プロデューサー sofia
照明        伊藤 孝
音響        中島 聡
衣裳        ゴウダアツコ
ヘアメイク     大宝みゆき
舞台監督      松下清永
 
演出部       森万由葉
照明操作      根橋生江
          若井道代
音響操作      楠瀬ゆず子
          中村友海
ヘアメイク部    山口 梓
          眞武泰徳(細谷佳正)
衣裳進行      小林瑞穂
ウィッグ協力    藤沢久美(スタジオAD)
稽古場音響協力   藤原圭佑 
 
大道具製作     俳優座劇場 櫻岡 諒
運搬        マイド
 
票券        田村美紀
制作        ゴーチ・ブラザーズ
制作進行      涌井恵美子/小田未希
運営        SCARLET LABEL
宣伝美術      平崎絵理
WEB制作        鈴木 拓
稽古場       Pstudio
 
協力マネジメント  Poem Co., Ltd.
          青年座映画放送
          ワタナベエンターテインメント

劇中使用楽曲    『Why Do You Love Me』
            Charlotte Lawrence
          『BINX』
            obylx

          『PINK』
            REELLE

          『Do You Dare?』
            Kylie Minogue

          『Shadow』
            Vicetone & Allie X


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